伊豆本店 亀の尾 

幻の酒米「亀の尾」で純米大吟醸を造る、伊豆本店

福岡県宗像市にあるJR教育大学駅や赤間宿から、車で5分。宗像大社からだと、車で20分ほどのところにあるのが、伊豆本店だ。

「カメノオ」と書かれたレンガの煙突が目印で、大きな門構え。瓦屋根の角には七福神がいて蔵を見守っている。中に入ると茅葺屋根が姿を現し、玄関には杉玉と稲わらで作られた亀が印象的だ。

伊豆本店は、「亀の尾」と言われる幻の酒米を使った酒で知られる蔵。創業は、享保2年(1717)。今年で300年目を迎えた。

静岡県伊豆の伊東から宗像へ。後に荒物屋を営み、幕府から「米で何かできないか」ということで酒造りへ。

宗像にありながら、伊豆本店という社名は珍しい。伊豆といえば、静岡の伊豆しか思い浮かばないのだが。

「もともとは、静岡の伊豆の伊東にいて、参勤交代か何かでこちらに来たと聞いています。はじめは、荒物屋を営んでいて、それこそ雑貨や日用品から薬までいろんなものを扱っていました。ある時、幕府から『米があるから何かできないか』ということで、酒を造りはじめたようです。創業は、この場所に来た1717年としていますが、もっと前から酒造りをしていたと聞いています」と話すのは、現在、12代目社長の伊豆善之さん。

 

宗像で契約栽培した酒米「亀の尾」で造る純米大吟醸。「亀の尾」ならではの独特の香りと、しっかりとした米のうま味や味わいが口の中で広がる。

亀の尾は、明治時代に山形県の阿部亀治さんが発見し、世に広めた酒米だ。戦前、病害虫に侵され姿を消したものの、亀の尾で酒を醸したいと各地で復活の動きがあった。現在、約40社の酒蔵で亀の尾を使った酒を造っているのだが、九州ではここ伊豆本店のみだ。

伊豆本店が酒米「亀の尾」をよみがえらせたのは、1989年のこと。12代目社長の伊豆善之さんの父である、善也さんが新潟農業試験場に出向き、保存されていた種子200粒を入手。7年がかりで、ようやく栽培に成功した。

「当時、新潟から来ていた杜氏も、亀の尾はいい米だから、亀の尾で酒を造りたいという思いが強くありました。亀の尾は、背が高くて、倒れやすく、収量が少なく、なかなか作るのが難しいのですが、今はだいぶ改善され、宗像の農家さんに契約栽培でつくってもらっています」と伊豆さん。

先代が酒米「亀の尾」を造りはじめたものの、なかなか米の収量が少なく酒を造れない時期もあったそうだ。

現在、銘柄「亀の尾」は、60%磨いた特別純米と、50%磨いた純米大吟醸の2種類ある。

「亀の尾の米の特長といったら、とにかく固い。精米業者泣かせですよ。その固さを実感するのが、精米です。なかなか水を吸わないから、水を吸わせるのにすごく時間がかかります。できた酒はというと、独特の香り。他の酒と全く違います。何種か利き酒すると、違いがすぐわかりますよ。よく『ちょっと寝かせたほうがいいね』と言われるのですが、確かに1年、2年と寝かせておくと香りと味わいが変わっていきます」。

米を磨くのは、うちでは50%が限界。目指すのは、米の味わいがしっかり残る酒造り。酵母につかうのは、金沢14号。ちょっと香りもありながら、酸味が少ない。

「基本的に、うちのコンセプトは食中酒が前提です。どんどん削って、今でいう香りがある酒というのが前提にありません。ですから、50%磨くのがうちの中での限界ですね。あまり削ると米の味がしなくなって、キレイになりすぎますから。

普通酒ではなく特定名称酒に関しては、酵母は全て金沢14号を使っています。お米によって違いを出すというのがコンセプトなので、いろいろと使わずこの1種類。金沢14号は、あまり他の蔵では使われていない酵母で、ちょっと香りもありながら酸味が少ないので、うちの酒に向いています。

それと、搾りは、やぶたをつかってないので、全量ふね(木製の搾り機)。搾るのに3日間かかります。うちは、基本的に全部手作業でやっているので、どうしても手間が掛かります」。

「山田錦」と福岡県で開発した「夢一献」を交配した、酒米「壽限無(じゅげむ)」で醸した酒。

「壽限無」は、平成24年に酒造好適米に登録された酒米で、主に筑後地方で栽培されている。心白が大きめでやわらかく、雑味が少ない酒になる。

「壽限無は、福岡の夢一献と山田錦を交配したもの。山田錦の性能をもっているので、麹米にしやすい。純米酒にすると味が濃く出る。冬は燗につけても美味しいですよ。

今は、どのメーカーも普通酒がどんどん減って、特定名称酒の中でも特に純米酒が増えています。うちは、現在純米酒が全体の6割ほどを占めています。いつも飲むのも純米酒」。

宗像産「夢一献」を使い宗像の酒蔵で造った、特別純米「ゆめ宗像」。宗像の休耕田で酒米を作ることで、農業所得に引き上げにつながれば。

世界遺産に向けて何かできないかということで造られたお酒が、特別純米「ゆめ宗像」だ。

「昨年、地元宗像で作ったお米を使って、宗像でお酒を造ろうということで、初めて造ったのが特別純米『ゆめ宗像』。JAの職員さんたちが、休閑地で夢一献をつくったんですよ。これから、一般の農家に酒米作りを引き継いでもらって、農業者所得を引き上げたいという気持ちがあるようです。もちろん、世界遺産に向けて宗像らしいものを作りたいという気持ちもありました。夢一献を使うのははじめてでしたが、なかなかいいものができたと自信を持っています。昨年はタンク1本でしたが、今年は2本仕込む予定です。地産地消。宗像で造ったお酒は、地元宗像の人にもしっかりと飲んでいただければと思います」。

地元で造られた美味しい酒を、地元の新鮮な食材とともに食す。これは、一番贅沢で豊かなことなのかももしれない。

施設名
伊豆本店
住所
福岡県宗像市武丸1060
電話
0940-32-3001
URL
http://www.kamenoo.com/