不屈の篠崎〜2〜

原点に立ち返る日本酒づくり

九州北部豪雨からの再出発シリーズ第2回

7月の九州北部豪雨で甚大な被害を受けた福岡県朝倉市の酒蔵、篠崎では、例年より2ヶ月遅れで日本酒の仕込みが始まっている。2017年度の清酒造りスタートの11月1日、蔵を訪れた。

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初日は、本醸造酒に使う酒米、山田錦の洗米。蔵人たちがストップウオッチで、米を水に浸す時間を計りながら、作業を続けていた。

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 4ヶ月前は泥水が押し寄せ、工場内は目を覆いたくなるような壊滅的な状況。それでも、前を向いて復旧できたのは、工場内の泥の除去作業などを手伝ってくれた、普段はライバルの酒蔵仲間ら多くの人たちの助けがあったからだ。

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待ちに待った日本酒造り。蔵人たちの目はキラキラしている。洗米は、米が水分を含みすぎても、水の吸い方が足りなくてもいけない繊細な作業。杜氏の指示を受けた男たちが、時間を口に出しながら、勢い良く米を洗っていた。

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 それにしても、本醸造酒に山田錦を使うとは贅沢だ。山田錦といえば、酒米の王様とも言われ、吟醸系の高価な酒に使われることが多い。

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地元朝倉の山田錦を使う

篠崎は酒米の産地にもこだわりがある。福岡県内のほとんどの日本酒蔵は、糸島産か兵庫県産の山田錦を使うが、篠崎では3年前から、蔵のある筑後地方西部の農家が育てたものを使用している。篠崎の跡取りで経営企画部長の篠崎倫明さんは、「ある時、東北の蔵元に、『酒造りは地元の米を使ってなんぼじゃないの』と言われたんです。その通りだよな、と思って」と理由を説明する。

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確かに、どの酒蔵でも、かつては蔵のある地域の米を酒造りに使用していたはずだ。倫明さんは「蔵は地域の方に支えられ、続けてこられたんです。われわれとしても、地元の人に潤ってほしい。そう考えて、地元産の米にこだわるようになりました」と話す。

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とは言え、山田錦は育てるのが難しい品種。朝倉市秋月などの農家に栽培を頼んでいるが、最初の年は品質も悪かった。それでも、すべてを買い取った。「地産で酒を造ってます、と言うのは簡単なこと。そのためには、われわれも、覚悟を持たなければなりません」。蔵の思いを意気に感じたのか、契約農家は年々、山田錦の質を向上させているという。

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甘酒メーカーであり、日本酒蔵

素材からこだわる酒造りの背景には、40歳の跡取りの清酒への危機感もある。「ここ数年は、篠崎の日本酒を再考する時期でもあったんです」

今や甘酒の国内トップメーカーである篠崎。看板商品の「国菊あまざけ」が会社の売上の大半を占め、本格焼酎が続く。江戸時代後期に清酒製造業として始まった蔵も、今では日本酒の稼ぎは、会社全体の数%に過ぎない。

 ただ、「自分たちは何者か」と尋ねられた時、篠崎は日本酒蔵だと答える。清酒造りこそ、約220年の歴史を誇る、篠崎のアイデンティティなのだ。だからこそ、豪雨で大きな被害を受けても、日本酒製造を辞めるという選択肢はなかった。

水害は結果的に、「自分たちのやりたいことを考え直すチャンスになりました」と倫明さん。「価値の高い日本酒を少数造っていく」という、これからの篠崎の方向性を示してくれた。

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2011年に家業を継ぐため篠崎に入った倫明さんは、今シーズン初めて日本酒造りの現場にいる。「やはり、自ら現場に立って、日本酒造りを経験しなければ、お客様にも、そして社員にも、酒のことを語れないじゃないですか」

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水害をきっかけに地元との絆深まる

取材後、工場を出ると、見送りに来てくれた営業部課長の梅野尚平さんが、お年寄りの男性と笑顔であいさつを交わしていた。「ご近所の方とこんなに親しくなれたのって、実はあの豪雨がきっかけなんです」

 7月の豪雨被害直後、社員らは工場の復旧を後回しにして、高齢者の多い近隣住民の支援に回った。今や日本トップの甘酒メーカーとして全国に進出している篠崎だが、そもそもは地元の人たちが地元の酒を愛し、支えてくれたからこそ、今がある。

蔵に恩返しをされた地元の人は、篠崎の新酒を心待ちにしているかもしれない。初出荷は1月の予定。今季のお酒は、心に染み入るに違いない。

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