博多日本酒吟醸香

寒北斗酒造 その2

福岡で地酒文化をつくろうと、33年前から酒屋とともに挑戦し続ける。寒北斗酒造その2

福岡でも地酒文化を根付かせようと、熱い想いで生み出された「寒北斗」だが、造りにおいて、今も変わらず貫いていることがある。それが、使う酵母だ。使うのは、「9号酵母」のみ。

「この酵母でしっかりとした吟醸を造りきらんと一人前じゃない」「この酵母以外手を出すな」。先代の言葉を今でも守り続けている、だからこそ、今がある

「酒を造ってくれるのは、酵母という微生物。うちは、『9号酵母』しか使わない。これは、昔からある吟醸の酵母。今は、たくさんいい酵母が出てきたから、『9号酵母』を使う蔵が少なくなって。うちの先代は、『この酵母でしっかりとした吟醸を造りきらんと一人前じゃない』いうのが口癖で。『この酵母以外手を出すな』というのを守り続けている。

これが正解なのか、時代の流れにあっているのかわかりませんが、おかげさまで今も飲み続けてくださるお客様がいらっしゃるから、まだ造れている。正直、『9号酵母』は香りが低い。ただ、ちゃんと香りが出てくれると華やかな香り。何とも言えない華やかな香り。この香りを最高に出すためには、こだわり続けて造らないと、出るかどうかわからないぐらい、敏感な酵母。腕が無いと出せません。だから先代は、『腕を磨くためには、これしか使うな。これで香りを出し切れるようになったら、一人前』と言っていたのです。

『9号酵母』でちゃんと造った酒は、香りも味もいい。なによりそのバランスがいい。熟成させると旨味が増すのがわかります。造り手は、この酵母全盛の時は、香りが出にくいので、もっと香りを出したいと努力していた。うちは、『熊本9号』を変えるつもりはありません。時には、やせ我慢も必要。うちは、これでという強がりをいいながら、続けているんです」。

寒北斗酒造では、10月の2週目から3月末まで酒造りが行われる。まさに、寒仕込みだ。蔵人は、蔵に泊まり込んでの作業となる。ところどころ機械化しているのだが、それでもやっぱり手作業を大事にする工程がある。それが、製麹(せいぎく)・麹造りだ。寒仕込みの説明はこちら

麹室で作業が終わったら、今度は酒母(酛)造り。「酛」は、「もと」と読む。基本的な酛の造り方は、水と麹を混ぜたところに、蒸した酒米を加え、さらに酵母を加えて培養する。酛を造るのは、雑菌に汚染されない品質の高い酵母を培養・増殖させる目的がある。常に温度チェックを行いながら。そして、醪(もろみ)の3段仕込みが行われる。

麹造りは、酒造りにおいて一番の要

「麹造りは、一番神経を使います。今日は蒸米を機械でほぐして冷やして種麹をふってから、麹室に運び手作業をしていましたが、大吟醸は機械を使わず全部手作業です。麹室で行う、引込み、床もみ、切り返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事、出麹などの作業は全て手作業。しかも、温度管理が要なので、泊まり込みで管理します」。

仕込みに使う酒米は、山田錦、夢一献など何種類かあるのだが、山田錦は地元産を使う。

酒母(酛)造りが終わったら、今度は蒸米をタンクに追加。3段仕込みの最終作業である留め仕込みだ。蒸米と水を追加していく。

山田錦は、地元の嘉麻市産。地元の水には地元の米が一番合う。それに、応援の仕方が半端ない

「ここ福岡県嘉麻市は、農林業が盛んなところ。水がいいから、近くには酒蔵が4軒ほどあります。当然、水がいいからいいお米ができる。山田錦はほぼ地元産。もともとは、糸島からいただいていたんですが、地元にいい生産者といい土地があれば、つくってほしいと思っていて、15年ぐらいからお願いしています。

糸島産は品質がいいといわれますが、嘉麻と糸島の違いといわれたら、僕は大差ないと思っている。地元の水には地元の米が一番合っていますから。それに、みなさん応援の仕方が半端ない。『俺のつくった米でできた酒』だと誇りを持ってくださっている。昔から、嘉麻は水がいい。水がいいから、酒が造りやすい。この味が出続けるのは、この水のおかげといってもいいくらいです。なにせ、1000m級の山の伏流水がこの敷地内の井戸の水。枯れずにいい水が出続けてくれて、本当にありがたいものです」。

できた醪は、「やぶた」で搾る。醤油なども同じ搾り機だ。大吟醸は「袋吊り」で。醪が入った酒袋を吊るし、自然に滴り落ちる滴をタンクで受ける搾り方。搾る工程もぜひ見てみたい。

寒北斗酒造 その1はこちら

寒北斗酒造 その3へつづく