高田町で造り、高田町で消費
まさに「地酒」の玉水
福岡県の旧高田町。山すそに田園が広がり、きれいな川が流れる。玉水酒造は川沿いに蔵を構えていた。合併でみやま市になったけど、清酒「玉水」は今も、高田の地酒である。
1878年(明治11年)創業。戦時中にいったん休業したが、1955年(昭和30年)に酒造りを再開した。「うちは、もともと農家で米をつくっていたんです。祖父と父が酒造りを復活させました」。蔵の跡取り、山下茂さんが説明してくれた。
わずか年間1万5000本
地元みかん農家らと酒造り
福岡県内でも、下から数えた方がいいぐらい小さな蔵だ。「うちの酒は福岡市など大都市には行ってないんです。地元に出して、地元の人に飲んでもらっています。高田町の人たちに育てられたおかげで、ほそぼそと続けてこられたんです」と茂さんは言う。
年間に造る酒は、一升瓶で15000本ほど。ほとんどが地元で消費されるから、福岡市内はもとより、東京、大阪など大都市圏の人たちは、お目にかかることはない。まさに地酒だ。
代表銘柄の「玉水」は、「昔ながらの糖入りの日本酒です」と茂さん。近ごろは、酒に何も添加しない「純米」がもてはやされるが、「うちのファンは、よその高いお酒を飲んでも『おいしくなか』と言うんですよ。味が薄いのか、物足りないそうで。玉水は、濃厚でしっかりした味わいの“昔の日本酒”と言ったらいいですかね」。
幻の米を復活させる
個性的な純米大吟醸酒「神力」
茂さんは今、49歳。東京農業大学で醸造学を学び、卒業後、すぐに実家の蔵に入った。当時、幻の酒米を復活させる漫画「夏子の酒」がちょっとしたブーム。自分も、同じようなことをやってみようと考え、かつて西日本一帯で栽培されていた「神力(しんりき)」という米に目を付けた。
「近所の酒屋と一緒に取り組みました。佐賀の試験場から神力を提供してもらい、地元農家に頼んで栽培してもらいました。20年以上前になりますね」。米の表面が固く、麹がつくりにくいなど、酒造りには向かない米と言われていてるそうだが、「あえて米を復活させることにこだわりました」。米の名前を取った「神力」は、今や知る人ぞ知る存在。うわさを聞きつけた東京などの日本酒好きが、蔵に直接注文してくるという。
「神力」は純米大吟醸酒なのだが、あえて名乗っていない。山田錦で造った大吟醸酒ほど、フルーティーな香りが出ないからだ。でも、華やかな香りがでない一方で、米のうまみがしっかりと味わえる。個性的な大吟醸酒だから、日本酒通に人気があって、「1年分の酒はなくなりますね」。
年間製造量が一升瓶で1000本ぐらいしかない「神力」。飲んでみたい人は、早い者勝ちである。
玉水酒造
住所:福岡県みやま市高田町舞鶴214-1
電話:0944-67-2001
「玉水」「神力」のほか、本醸造の「峰の蔵」を製造。基本的に地元でしか販売していないので、遠方の方は玉水酒造に直接注文してほしい。
玉水酒造の酒が味わえるイベント酒文化博
4月8日土曜日、新幹線筑後船小屋駅前で!
第3回筑後七国酒文化博
4月8日(土曜日)12時~18時、九州新幹線筑後船小屋駅横の九州芸文館で開催。参加蔵は日本酒蔵の後藤酒造場、旭松酒造、高橋商店、喜多屋、若波酒造、菊美人酒造、玉水酒造、目野酒造と焼酎蔵の西吉田酒造の計9蔵。1蔵3~5銘柄の酒が1杯100円~300円で味わえる。地元食材のおつまみも販売している。前売りチケットは1000円(1100円分)、当日チケットは1000円。問い合わせは、九州芸文館(0942-52-6435)へ。