新小岩鮨処きし

うまい、安い、サービス最高!

日本酒にぴったりの江戸前ずし

舌のこえた飲食店の経営者から、東京・新小岩にうまい鮨(すし)を食わせる店があると聞いた。しかも、喜多屋の酒を置いているという。「東京のすし屋に福岡の酒か」と興味をひかれて向かった先は、「新小岩鮨処 きし」。結論から言うとすっかり気に入った。うまくて、値段もお手ごろで、サービスも最高なのだ。

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シャリにこだわる

酢飯がうまければ、すしもうまい

のれんをくぐると、大将の岸田義高さんが出迎えてくれた。徳島から上京後、すし職人として40年。渋谷などの店で板長を務め、2015年12月に自分の店をオープンさせた。昔ながらの江戸前ずしを握り、とくにこだわっているのが、シャリ(酢飯)。「すしの基本はシャリ。シャリがうまければ、そのすしはうまいんだ。うちのシャリを食べて、おいしいと思ってもらえたら最高だね」と大将は力を込める。

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すしネタもピカイチ

銀座超高級店と変わらない上質な魚介

もちろん、魚などの魚介類も、新鮮で上質なものを市場で仕入れてくる。常時30種類ほど。「商売人でなくて、職人なんですよね。良いものを見ると、お客さんの喜ぶ顔が浮かんでね。ついつい買い過ぎちゃう。だから、食材のロスが多いんですよ。店の経理をしている娘にいつも怒られちゃってね(笑)」

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マグロは、「銀座の食べたら10万円ぐらいする店と同じ質のもんだよ」と岸田さん。中トロをいただいたが、口の中でとろけて、甘みが広がった。

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握りでトロをいただくと、もう最高。脂身がとろける。そしてシャリがうまい。

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江戸前ずしといえば、コハダ。店でも自慢のすしだ。

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酢〆(すじめ)が抜群である。酸っぱさを感じない。むしろ甘みを感じる。シャリと渾然一体。うまい。大将の40年の技が詰まっている感じがした。

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続いて、もう一つの江戸前代表格のネタ、穴子(アナゴ)。「江戸前のアナゴは黄金色なんだ」と得意げな大将。口に含んだら、ふわっ、ふわっ、である。似たアナゴに塗ったツメ(タレ)が、シャリにベストマッチ。物を食して、久々に感動した。

ツメは、職人の宝物。1日では、今の味はできない。アナゴの煮汁を毎日毎日、つぎたし、つぎたしして、積み重ねた結果が、深みのある味わいになっているのだ。岸田さんは開業1ヶ月前から、ツメだけは準備していたという。

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うまい、うまいを連発していると、「うれしいね。これ、食べてみてよ」と品が出てくる。「職人なんだよね。ほめられると、ついついサービスしちゃうんだよね」と岸田さん。

そして、酒まで。

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福岡の喜多屋と山形の出羽桜。いずれも日本酒世界一の「チャンピオン・サケ」に輝いた酒蔵だ。

「九州のお酒を出すようになって、お客さんから酒のクレームがなくなったんだ。『おいしいから飲んでみてよ』と喜多屋の酒を出すと、みんな不思議と黙って飲む。九州の酒だと伝えると、お客さんは驚くけど、『うまいつまみがあって、いい酒がある。二つそろっている店って、そうないよね』と言って褒められたんだよね」

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岸田さんは自らを商売人ではなく、職人と話していたが、採算度外視で客サービスしてしまうのには理由がある。雇われていたころは行く先々で板長になり、お客で店はにぎわった。「自分の腕が良いからだ、とのぼせていたんだよね」。一国一城の主となって、「お客さんは自分ではなく、店についていたんだ」と気づいた。「今、自分はお客さんに支えられているんだよね。感謝しかないよね。だから、おいしいと言われたらうれしくなって、『これもちょっと食ってみなよ』ってサービスしちゃうんだ」。

店に、足繁く通ってくれる客を喜ばせたい。そのためには妥協はできない。

きし自慢のシャリは、山形の有機栽培米。一つの田んぼでつくられたものを取り寄せている。そして、新米を使うのが岸田流。一般的なすし店は、古米を使用する。さらっとしたシャリができるからだ。新米だと粘り気が出すぎる。あえて使うのは、「古米より、甘みもあってうまいから」と岸田さん。コストも当然かかる。

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徹底して米を洗っているから、一粒一粒が壊れず、さらりとしたシャリに。口に含むとホロリとほどける。炊飯前の米を見せてもらうと、真っ白で水も透明に澄んでいた。ここまで米を研がないと、新米でうまいシャリはできないという。

しかも、「多めの米を炊けばうまくなる」とロス覚悟で炊飯する。「セコい考えじゃ、うまいものはできないんだ」

セコセコせずに、銀座の超高級すし店に負けないぐらい上質な素材を仕入れ、値段は半額以下。人情たっぷりの接客に、すばらしい技術力。「原価ばっかりかかって、儲かんないんだよ」と屈託なく笑う岸田さんを見て、新小岩の人たちがうらやましくなる。地元に、こんな粋なすし職人がいるのだから。

新小岩鮨処きし

東京都江戸川区松島4−31−13

03−5879−2153

定休日は水曜日。

酒を飲んでコースを食べて1万円程度。営業時間は17時〜22時だが、「電話してくれたら、営業時間外でも店を開けて待ってますよ」と岸田さん。5人以上の予約であれば、ランチも可。