対談うえやまとち様

対談うえやまとち様

漫画家 うえやまとちさん
日本酒はとっておきのお酒です

クッキングパパは連載開始30年を超えたんですけど、レシピは尽きないですね。まだまだ、いろんな人から、いろんなレシピを教えてもらおうと思っていますよ。長続きの理由は、やっぱり料理を楽しむことですね。料理は「おいしいらしいよ」じゃ描けない。だから、毎回、実際に自分で試食を作って味わっています。それが楽しいんです。

こだわり過ぎないことも、30年続けてこれた理由になるかな。最高の食材で、最高の料理を、という考え方もあるんでしょうけど。クッキングパパの原点は、冷蔵庫を開けたら今すぐできるよ、っていう料理を紹介することなので。レシピを読んで、簡単そうだから自分も作ってみようと思ってもらえる漫画を心がけているんです。

日本酒に関しても同じなんですよ。僕は、銘柄にこだわりません。おいしければいい。80点以上あれば満足です。90点以上あれば、大満足です。100点じゃないとダメだという人間じゃないです。料理もそういう感じです。80点あればいい。

実は今、ダイエットで糖質制限をやっているので、普段の晩酌はハイボールなんです。ウイスキーですね。蒸留酒は糖分が入ってないですから。日本酒は糖質があるから、今の僕には、とっておきのお酒なんです。とっておきとは、おいしい和食をいただく時ですね。刺身とか、煮物とか、「これはうまい!」という料理が出たら、自然と日本酒を頼んでしまいます。ハイボールで我慢しておこうかな、と思っていても、料理があまりにもおいしいと、日本酒を飲んでしまうんです。

おいしい日本料理に、ハイボールは合わないですよ。料理がもったいない。焼酎も糖質ゼロだから、しょっちゅう飲むんですけど。焼酎でもないかな。やっぱり、おいしい和食には、おいしい日本酒でしょうかね。酒の銘柄は、いつも決めていません。特にこだわりはないんです。でも、冷酒のおいしいやつを頼みます。2015年の30周年を記念して、喜多屋(福岡県八女市)からクッキングパパのラベルの純米酒を造ってもらったんですけど、それもおいしかったですね。

糖質制限をしていると、やせるんですけど、仕事で丼食いまくったりするし、デザートを作ったら味見しないといけない。そんな生活をすれば体重が戻ることも(笑)。糖質ゼロの日本酒も出たんですけどね。うま味が薄い。日本酒のうま味と言ったら、やっぱり「甘み」だと思います。辛口と言ったって、甘みはあるし。すっきりした甘み、みたいな。

クッキングパパには、あまり日本酒が出てこない? う~ん、出てこないかな。乾杯の時はビールかワインが多いかもしれないですね。放浪画家の花山小吉画伯が沖縄に行って「日本酒がない」って場面はあったけど。喜多屋や繁桝の日本酒瓶が出てきたことはありますよ。

日本酒のつまみになるような料理を描くことは、もちろんありますよ。最近で言ったら「儀助煮(ぎすけに)」とか。大豆といりこなどを甘辛くしたもの。3年前ぐらいかな、福岡県うきは市の道の駅で出会いました。「何これ、うめーな」と思って。「儀助煮」は高級な日本酒よりも、日常的に飲む日本酒に合いそうな気がします。

漫画に描く料理は、偶然の出会いが多いですよ。「これうまいね」と思うと、裏面の原材料表示を見て、作ってみようとなるわけです。全く出来ないこともあれば、近いものができることも。それが面白いんです。レシピを再現していて、肝心なポイントはわからない、となったら、教えてもらったりします。結構、みんな教えてくれますよ。

とにかく、毎週、締切に追われるように、料理を作ってます。レシピの作りためはほとんどないです。3つ、4つ同時進行しているものはあるけど、基本的には毎週、1発のレシピです。それで、30年続けていられるのは、これが生活になっとうからだろうね。原稿が上がったら、次の日はうだうだ酒を飲んでいますよ。その次の日ぐらいから、さあ料理作ろうかと、なるわけです。それを続けて、138巻(2016年10月1日現在)まで来たわけです。

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が200巻で終了したことについては、よく聞かれます。巻数で言ったら「ゴルゴ13」に次いで3位にいるとか。200巻まで、あと62巻ですか。あと10数年はかかるでしょうね。ただ、越えようなんて、全然思ってないですよ。そもそも30年、連載をやるなんて考えてなかったし。こんなに続くとは思ってなかったし。そういう意味では、138巻まで続いているのは、たまたまなんですよ。料理を楽しんでいたら、いつの間にか、30年が過ぎていただけなんです。

でも、登場人物は15年ぐらいしか年が進んでないんですよね。主人公の荒岩一味がやっと40代後半になって、小学2年だった長男のまことが成人し、連載開始後に生まれた長女のみゆきがようやく中学生になりました。荒岩はようやく課長まで昇進、奥さんで新聞記者の虹子さんは副部長ともっと出世してます。ちなみに、島耕作はもう会長まで行ってますよね(笑)。

クッキングパパはずっと博多が舞台です。東京の情報に踊らされず、東京の流行とは関係ないところで描いてきました。荒岩は「イクメン」の元祖と言われたりもするけど、男も料理をするべきだとか、家事ができなきゃ、とかを訴える漫画ではありません。家族みんなが楽しい生活を送るために、仕事も家事も、必要なことをテキパキとこなして、奥さんが仕事で遅く帰宅したら「おかえり」とニッコリ迎えてあげられる。そんな、かっこいい男を描きたいと始めたんです。実際、子供を持ってみて、荒岩のかっこよさがわかるという読者も多いです。

そんな荒岩の日本酒をめぐる思い出深いシーンがあります。108巻で描いたカラスミです。まことが成人式の日、友人たちと飲んで酔っ払って帰宅するんです。荒岩だけが起きて待っていて、カラスミと徳利に入った日本酒を、息子に差し出します。そして、「おめでとう」と成人式を迎えた長男とおちょこを一緒に傾ける。父と息子の何でもないシーンなんだけど、何か心に残るいいシーンなんですよね。

僕は日本酒をとっておきのお酒と言ったけれど、このシーンを思い出すと、本当にそうなんだなと思うんですよね。

対談うえやまとち様

対談うえやまとち様

クッキングパパ

1985年、講談社の「モーニング」で連載開始。料理勝負などがメインの他の料理漫画とは一線を画した作品づくりで、30年以上の長期連載を続けている。福岡を舞台に、主人公で会社員の荒岩一味が作る料理と、家族のきずななどを描いた、ほのぼのとしたストーリーが印象的だ。作者のうえやまとちさんは福岡県福津市在住。

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