黒田節の武将にちなんだ日本酒造り
筑豊・嘉麻市の酒蔵
「酒は呑め呑め、呑むならば、日の本一のこの槍を、呑み取るほどに呑むならば、これぞまことの黒田武士」
福岡の有名な民謡、黒田節で歌われた「黒田武士」を代表的な清酒銘柄として造っているのが、嘉麻市にある大里酒造だ。
なぜ、福岡藩(筑前)の黒田の武士が、筑豊の酒造の銘柄に?
その理由は、藩きっての大酒豪、母里友信(太兵衛)に由来する。
福島正則から「この酒を飲み干したら、好きなものを褒美にとらすぞ」と挑発され、大杯の酒を3杯も空け、日本一の槍・日本号をもらった太兵衛。
その様子が黒田節に歌われている。
そんな太兵衛が城主を務めたのが、嘉麻市にあった益富城。
大里酒造では、郷土にゆかりのある有名武将にちなんだ「黒田武士」の名を、蔵の日本酒の銘柄に使いたいと思い、黒田家の末裔にコンタクトを取って使用することを認めてもらったという。
さて、この大里酒造。
酒造りも他と一風変わった点があって面白い。
何が面白いって、火入れ(瓶燗)、つまりお酒のお湯での熱殺菌を釜で薪を焚きながら行っているのだ。
大里酒造の大里至社長は「非常に非効率的なやり方かもしれませんが、われわれにとって一番おいしい酒ができると思ってやっています」と笑う。
62度で10分間。
急激な温度上昇で美味しさ逃さないようにしている、牛乳の低温殺菌と同じ考え方だという。
ただ原始的な酒造りをやっているかと思えば、ワイングラスが似合いそうな純米吟醸酒「K NEXT」など、今風なお酒も次々と発表している。
「昔ながら」と「今風」が混在している大里酒造。
その代表は、笑い声も豪快な大きな体躯の現在48歳。
蔵元の子として生まれ、酒蔵の子息が多く通う東京農業大学で学んだ。
卒論はワインの研究という。
福岡県酒造組合の会長を務めたいた先代の父が多忙なため、「早く帰ってこい」と連れ戻され、23歳で蔵に。
先代が32歳のときに亡くなると、若くして蔵のトップになる。
酒造りに関しては、佐賀から来ていたベテラン杜氏の下について昔ながらのものを学んできたが、40歳を過ぎて蔵元杜氏となり、「これからは自分の時代」と新たな挑戦をスタートさせている。
「伝統文化はただ守るものではなく、新たなものを足していかなければならないです。薪で行う瓶燗は大里酒造にとって一番いいと思ってやっているだけで、常に酒造りの知識や技術は最新のものにアップデートしています」
「黒田武士」と聞いて、どっしり、重厚な味わいの酒ばかりを想像するが、意外やスイスイと飲みやすいものばかり。
黒田家の有名な家臣、後藤又兵衛の名を取った純米吟醸酒「又兵衛」は、軽い口当たりでほどよいフルーティーな余韻が心地よかった。
大量生産はできない日本酒の造り。
大里酒造はクラフトマンシップを感じる酒蔵であった。
- 施設名
- 大里酒造
- 住所
- 嘉麻市大隈551
- 電話
- 0948-57-0059
- URL
- http://kurodabusi.com
- その他
- 天保年間創業で、直売所も運営。季節限定品を含めたさまざまな銘柄を購入できる。