池亀酒造の洋食に合う日本酒・黒兜(くろかぶと)
清酒では全国的にも珍しい黒麹を使った池亀酒造の純米吟醸酒、「黒兜 山田錦(くろかぶと やまだにしき)」と「黒兜 夢一献(くろかぶと ゆめいっこん)」。
独特の酸味が、天ぷらや唐揚げなどの油物の食事にぴったりだと人気だ。
一般的には本格焼酎に使用する黒麹を、日本酒づくりに使ってみようと思ったのは、池亀酒造の6代目、蒲池輝行さんの経歴と深く関わる。
早稲田大学で微生物を勉強し、九州大学大学院で発酵化学を学んだ「研究者」。
そのままワイン製造販売大手のメルシャンに就職し、その後オエノングループの福徳長酒類に移り、焼酎や日本酒の製造にかかわった。
蔵の生き残りを懸けた個性的な日本酒・黒兜
「もともと蔵を継ぐ気はなかった」と蒲池さん。
ところが、家業を継承していた兄の突然の死。
2004年に蔵に戻った。
昭和40年代から50年代にかけての最盛期には、7000石もの清酒を製造していたという池亀酒造。
時代の流れとともに日本酒の売上も、右肩下がりに減っていた。
輝行さんは、蔵の酒の特徴がなくなっていることを憂う。
このままでは蔵は消える。
生き残りをかけて、「個性的な酒を造ろう」と研究者としての血が騒いだという。
ワインにヒント、酸味に個性を求めた黒兜
蔵に入った当時、世の日本酒は飲みやすさを追求するあまり、酸味を減らす傾向にあった。
そこに疑問を持つ。
「私はメルシャンでワインの研究をしていましたから。ワインには酸味がありますよね。料理に合うお酒には酸味が必要。天ぷらなど居酒屋メニューの脂っこい料理に負けない日本酒は、レモンのような酸味があるものだと思ったんです。だって、脂の乗った焼き魚にレモンやカボスを絞ったらおいしいでしょう」
酸味のある酒と言えば、普通は山廃仕込みの日本酒が考えられる。
ただ、山廃はヨーグルトっぽい酸味。
レモンのような柑橘系の酸味があれば、他にはない「個性ある酒になるのでは」と挑戦心が湧いた。
黒麹の研究者、池亀酒造の蔵元の血が騒ぐ
そこで注目したのが、麹だった。
6代目が大学院生時代に研究していたのが「黒麹」。
酸味がレモンなどと同じクエン酸系だった。
日本酒は一般的に黄麹で醸される。
本格焼酎に使用される黒麹は色素の中に雑味、渋みなどがあって、放っておくと、とんでもない酸味の酒になる。
清酒向きではないとされ、ほとんどの日本酒蔵が敬遠してきた。
ただ、そこは黒麹の研究者。
麹の特徴を熟知している。
洋食レストランで人気の黒兜
さまざまな工夫を重ねて、2006年度(平成18年度)、バランスのよい酸味の日本酒ができあがった。
黒麹菌がかぶとをかぶったように見えることから、「黒兜」と名付けた。
地元を中心に売り出すと予想以上に好評で、イタリアンなどの洋食のレストランからも人気が高い。
独特の酸味がある酒だから「ワインが受ける国にも評判で」とドイツやアメリカなどにも輸出しているという。