筑紫の誉・えつの豊

酒どころ城島にある、筑紫の誉酒造が期間限定で営む「えつの豊」でいただく幻の魚エツ

日本では有明海のみに棲息し、産卵のために筑後川を遡るという幻の魚エツ。5月1日から7月20日までエツ漁が解禁され、この時期に筑後川流域でしか食べられない貴重な魚。そんなエツ料理を、酒どころ城島の蔵元で食べられるという。

その蔵元が明治30年創業の筑紫の誉酒造だ。築130年の日本家屋を開放し、5月12日から7月5日の約2カ月、季節料理「えつの豊」としてエツ料理を提供している。

訪れたのは、ギリギリ最終日の5日のこと。毎年訪れているであろう女性グループが来店していて、時折歓声が沸いていた。蔵元の美味なる酒に、淡白な味わいの幻の魚。さらに、風情ある日本家屋のこの空間と。たまには、こんな贅沢な時間を過ごすもいい。

料理上手の義母が、得意先に接待として、エツ料理とお酒を振る舞っていたのが、「えつの豊」のはじまり

「料理上手の義母が、得意先である酒の小売店さんを接待して、エツ料理とお酒を振る舞っていたのが口コミで広がり、お知り合いを連れて来たいという方が増えてきたので、約2ヶ月間限定で料理店を開業することになったんです。昭和56年ごろからです」と話すのは、筑紫の誉酒造の社長夫人である鷲頭五月さんだ。

「5月1日から解禁になるのですが、脂がのってくる12日ごろから本当に美味しい時期だけご提供しています。産卵してしまうとどうしても身が硬くなってしまうからです。母がお酒に合う料理ということで、試行錯誤して、今の調理法にいきつきました。その味を伝承しています。酢味噌も奈良漬も自家製です」。

刺身、煮付け、骨せんべい、湯葉巻、椀物、団子フライなど、エツの頭から骨まで丸ごと堪能できる。無添加味噌も奈良漬も自家製で

当初は話を聞くだけの予定だったが、これはぜひ食べて見なければということで、実際にコース料理をいただいてみた。コースは、13品(6480円)と15品(8640円)の2コースある。

13品のコース料理の内容は、和菓子、えつ南蛮漬け、えつ卵煮付け、骨せんべい、えつ活卵(ない場合もある)、えつ刺身、えつ湯葉揚、えつの玉子巻、椀物、えつ煮付、姿焼、えつ団子のフライ、ご飯、香の物、アイスクリーム。

えつ卵煮付け

えつ刺身

えつ湯葉揚

えつ煮付

姿焼

えつ団子のフライ

ご飯、香の物

このエツ料理、より美味しくいただくためには日本酒も一緒にいただきたいもの。おすすめは、大吟醸、特別純米酒、原酒初蔵だよりの3種類とのこと。

「大吟醸は、福岡県糸島産の山田錦を38%まで削って醸しました。全国や福岡の鑑評会で何度も賞をもらっているんですよ。純米酒は、地元産の夢一献を使い精米歩合は60%。スッキリとしていてやや辛口です。初蔵だよりは、一番搾りの原酒になります。地元産のヒノヒカリを使っていて、搾りたての原酒なのでしっかりとした深い味わいがあります。

うちのお酒には、7号酵母を使っているので、全体的に昔ながらのどっしりとした重みのある酒になります。米と蒸米と麹など、昔から引き継がれている仕込み配合をそのまま引き継ぎ、昔ながらの造りを伝承しています。大吟醸だけは、オリジナル酵母。香りがよく出て華やか。深みのあるしっかりとした味わいです」と社長の鷲頭勇人さん。

昔ながらの造りを守り抜く鷲頭社長。蔵へも案内していただいた。

「うちは、50年ぐらい前から無添加の味噌もつくっています。お酒と同じ麹で仕込みます。大豆は福岡県産。麹と大豆のブレンドの仕方が他とは違っていて、酒屋ならでは。うちのを食べたらよそのは食べられないと味噌のファンも多いんです。また、奈良漬も人気ですね。白ウリは久留米と瀬高の農家から直接持ってきてもらっています。3日程塩漬けした後に大きな樽で粕漬け。2週間後に、小分けして新しい粕で漬け直します。エツ料理が終わったら、今度は粕漬けで忙しくなります」。

ご飯とともにいただいた奈良漬は酒粕の風味が程よい自然な味わい。いくらでも食べられる。最後はお抹茶のアイスクリームでコースは終了した。

「死ぬまで来ますよとおっしゃってくださる方、この時期になると胸騒ぎがして、日にちを決めて早く食べに行かなきゃとおっしゃってくださる方など、みなさん毎年エツ料理を楽しみにしてくださっているようです。わざわざ2,3時間かけて足を運んでくださいます。古い日本家屋でゆっくりとエツ料理を満喫していただいて、初夏の訪れを感じていただければと思っています。中庭の樹木も樹齢120年ほどの古木です。槙の木、青もみじからぬける風もさわやかで、懐かしい幼少時代の記憶が甦ります。お酒にしても、エツ料理にしても、日本家屋にしても、この地域文化や歴史を守り伝えていかなければ」という五月さんの言葉が心に響いた。

エツには、こんな言い伝えもある。昔、みすぼらしいお坊さんが筑後川を渡ろうと、舟に乗せてくれるよう船頭に頼んだ。だが、その身なりを見ると船頭は黙って向こうに行ってしまった。通りかかった一人の漁師が「俺のボロ舟でよかったら」と、お坊さんを舟に乗せた。

お坊さんは、親切にしていただいたお礼にと、岸辺に生えている葦の葉を四、五枚抜き取り、川に投げ入れた。すると、ただの葉っぱが、たちまち今まで見たことのない魚になって水中深く潜っていった。この魚がエツで、お坊さんは弘法大師であったそうだ。

いくつかの蔵元を取材させていただいたが、それぞれの蔵元にはそれぞれの想いがあり、それぞれのスタイルがある。日本酒、地元の食文化、日本家屋と三位一体で営む筑紫の誉酒造。初夏が訪れる前、きっとまた、あの贅沢なひと時を思い出すに違いない。できることなら、今度はひとりではなく、特別な人と一緒に訪れたいものだ。

 

住所
福岡県久留米市城島町青木島181番地
電話
0942-62-2320
URL
http://www.c-homare.com/
営業時間
えつの豊は、毎年5月12日~7月5日のみ営業11:30~15:00、17:30~21:00※要予約※
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