繁桝の新たな挑戦

得意の「麹づくり」で100点満点の酒を追い求める繁桝

吟醸香,繁桝,日本酒,福岡

福岡でも人気の酒「繁桝(しげます)」をつくっている高橋商店が創業300年を迎え、新たな挑戦を始めている。

2018年、木製の大きな麹室を新設するなど大規模な設備投資に踏み切り、国際的な食品衛生管理の手法「HACCP(ハサップ)」導入を進めた。

「繁桝」の魅力を高め、世界市場も視野に入れられる体制づくりを行っているのだ。

繁桝を疑う?

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高橋商店の19代目の中川拓也社長は、代々蔵元を務めてきた高橋家の人ではない。

高橋信郎会長の娘婿だ。

木製の麹室を新たにつくった経緯で、「繁桝の酒」を疑っていたという話がおもしろい。

もともと、トンネルを掘るゼネコンで働いていた中川社長。

よそから高橋商店に入り、すぐに疑問がわいたという。

「みんなが『繁桝の酒は他とは違う。麹づくりに長けているから』と自信満々に言うんです。たしかにうまいとは思いますけど、果たして『他とは違う』って本当か? これだけ科学技術が発展した世の中なら、すぐに他の蔵も同じレベルの酒をつくれるようになるんじゃないか」

そんな「いつかは追いつかれる」との思いを高橋会長らにぶつけたが、なかなか納得してもらえない。

自分は正しいことを言っていると思っていても、論破できるほどの理論武装の材料がなかった。

麹づくりこそ繁桝の原点

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社長として、この先、繁桝をどう守っていこうか?

どう違いをアピールしていこうか?

ワインがブドウにロマンを求めるように、繁桝の日本酒も酒米に物語性を持たせてみようか。

「鮮度が重要なブドウは長距離の持ち運びができないから、地方ごとに造られるワインにはロマンが生まれるわけです。でも、米は日本全国から取り寄せられますし、そもそも酵母や精米、手法の違いが各蔵の味の違いを生み出すわけですからね。酒米にロマンを求めるのは違うと思ったんです」

たどり着いた答えは、高橋商店の強みであり、原点だった。

高橋会長を始め、蔵人みんなが自信を持っていた「麹づくり」だった。

「高橋商店が麹づくりが他の蔵よりも長けている、と言うのなら、得意の麹づくりをとことん追求してみようと考えたんです」

実は、高橋商店は江戸期の1717年に造り酒屋を始める前は、味噌や醤油などの麹づくりを家業としていた。

地元では長らく「麹屋」と呼ばれていたという。

中川社長自身も気づいてはいなかったが、麹づくりは、高橋商店のアイデンティティとも言えるのかもしれない。

麹ロマン繁桝

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中川社長によると、麹の働きに関して実は、多くのことが解明されていないという。

だからこそ、麹づくりには神秘性があり、ロマンがある。

そして、ステンレス製が主流の現代で、あえて昔ながらの木製の麹室にしたのは、「ステンレスなら80点の及第点のお酒はできるかもしれませんが、100点は取れないかなと思ったからです」。

木製だからこそ住み着くだろう麹菌。

その働きが、時に満点の日本酒を誕生させるかもしれない。

まさしく、麹ロマン。

さらに、手入れの大変な木製にすることで「蔵人が普段の清掃から気を使うことで、たとえ酒のレベルが他蔵に追いつかれたとしても、繁桝の蔵人たちは他よりも優れた感性を持ってくれるのでは」との狙いもあった。

300年の老舗蔵、高橋商店に吹く新風

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高橋商店の酒蔵のある八女市には、喜多屋も本拠を構える。

どんどん外に飛び出し、IWC(インターナショナル・ワインチャレンジ)チャンピオンの酒を生み出すなど世界でも評価を高めているライバルに対し、昔ながらの繁桝ファンはもどかしい思いをしていたかもしれない。

良く言えば、地元重視。

ただ、地元の目を意識しすぎるあまり、それが足かせになって、自由に外に飛び出したくても、飛び出せないのかなあ、と感じることもあった。

しかし、高橋商店は蔵の未来のために、着々と準備を整えていた。

福岡の酒蔵で真っ先にハサップの導入を進めることで、外に飛び出す、世界市場にも売って出られる体制は出来てきている。

外からやってきた中川社長が、創業300年の老舗蔵に新しい風を吹かせ始め、これから出来上がってくる繁桝が楽しみでならない。

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