山廃仕込みとは

山廃(やまはい)仕込みとは

はじめて、山廃(やまはい)仕込みを飲んだのは、喜多屋の「特別純米酒 蒼田 山廃仕込」。

それまで、恥ずかしながら山廃(やまはい)という言葉すら知らなかった。「なにせ造るのに手間がかかる」「実は、喜多屋の蔵人が好む酒」「魚より断然肉と合う」という話を杜氏さんから聞き、興味津々で純米酒、純米吟醸酒と飲み比べてみると、明らかに他の酒と趣が異なった。独特の野性味が感じられやや甘いという印象を持った。肉と合うとのことで、軽く炙ったお肉を食べたあとに、山廃を口に含むと驚きである。最初に飲んだ時の印象と、全く異なる味わいがするのだ。口の中で肉のうまみをより膨らませ、酒は酒で芳醇な香りと旨味がさらに引き立った。

喜多屋の通常の日本酒の酒母は仕込んで8日目に完成するのに対し、「特別純米酒 蒼田 山廃仕込」は、通常の3倍である25日かかる。さらに、山廃酵母から醪(もろみ)までは2ヶ月間ちかく低温でじっくり発酵させるという。

山廃仕込みの前に、知っておきたい生酛(きもと)造り。生酛造りは、天然の乳酸菌や酵母菌を取り込み、ゆっくり発酵させる

山廃仕込みは、自然界に存在する乳酸菌を利用する生酛(きもと)系の酒母造りだ。

生酛造りは、最も伝統的とされる酵母造りの技法のことで、江戸時代に確立された仕込み方法だ。蔵内に浮遊している天然の乳酸菌や酵母菌を取り込み、ゆっくり発酵させる。まず、桶の中で米麹をすり潰す「山おろし」という作業を行う。「山おろし」は、蒸し米、米麹、水を合わせて、少量ずつ桶に入れ、櫂棒ですり潰す。この作業に2日間かかり、その後タンクに入れて、約30日間で酒母が完成する。最近、この生酛造りに注目し、手掛ける蔵元が増えつつある。

明治末期までは、どこの蔵も生酛造りで酒を造っていた。その後、明治42(1909)年に山廃酛、明治43(1910)年に速醸酛が開発されると生酛造りをする蔵はほとんどなくなってしまったそうだ。現在、大半の蔵は速醸酛で酒を造る。

山廃仕込みと生酛造りの違いは、最初の2日間の「山おろし」をするかしないか

それでは、山廃仕込みとは、いったいどのようなものなのか。簡単にいうと、生酛造りの中にある最も重労働とされる「山おろし」を省いた方法。山おろし廃止という意味から「山廃」と呼ばれるようになった。まず、米麹と水を混ぜて水麹をつくりタンクに入れて、その後、蒸米を加え、約30日で酒母ができあがる。

大半の蔵で採用されている「速醸酛」は、乳酸を添加

速醸酛は、米麹、水、乳酸、酵母で水麹をつくりタンクに入れて、その後、蒸米を加える。山廃や生酛の半分の日数である約15日で酒母が完成する。

まだ、生酛造りのお酒は飲んだことがないので、どんな味わい香りなのか、ぜひ飲んでみたい。

 

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