空調の効いた“屋台”
長浜ラーメン激戦区で再出発
福岡の夜の名物と言えば、屋台。普通は道路沿いにあるものだが、ビルの一部屋にドドンと屋台を入れ込んでいる飲食店は珍しい。「長浜満月」は、福岡名物の雰囲気を味わいながら、空調の効いた一般店舗の快適さの中で、料理と酒を楽しめる。
店舗の場所は、「長浜ラーメン」の有名店がひしめく地域。ただ、「長浜満月」の場合は、ラーメン店ではない。もちろん、豚骨ラーメンは看板メニューの一つで、味も折り紙つきだが、鶏、豚の串焼きなど、お酒のつまみも豊富。日本酒も「喜多屋」の銘柄が置いてある。
扉を開けると、広々とした店内の正面奥に屋台が置いてあった。「丸11年、屋台をやってましたから。昔から使っていて愛着もあるし、店内に置いてます。昔からの常連さんも必然的に屋台の長椅子に座りますよ」。店主の内山俊二さんが、説明してくれた。
料理も屋台スタイル。餃子はタレがかかった状態で出されるので、タレを入れる皿が必要ない。
ウナギの蒲焼きはタレを付けて焼いてるから、外側がパリッとして、タレが皿にべっとりつくことがない。
内山さんはもともと、今の店舗近くの福岡市中央区長浜の路上で、屋台を出していた。ところが、福岡市の屋台経営者公募の審査で落選した。審査書類で、本音を語りすぎたのかなと思っている。
正直な人なのだろう。ライバルは集客のほか、外国人観光客への対応など福岡観光の貢献についても、事細かく書いただろう。内山さんも、屋台を続けるためには、将来像について、福岡市相手に、優等生的な言葉を専門家に頼みながら書くべきだった。でも、できなかった。
内山さんは市役所に迎合して、屋台を継続できたとしても、やりがいを感じることができなかったのだ。専門家の助言に従えば、自らの本当の思いは封印しなければならない。集客などの細かい数字に縛られる可能性もある。そんなことを考えながら経営しても、息苦しいだけだ。だから、「これまで通りの手法でやりたい」と本音で語ってしまった。
狭い場所で客同士が密着し、店主との距離も近い濃密な空間。「屋台は、お客さんとのコミュニケーションが楽しくて、好きだったんです。今さら普通の飲食店の接客はできない」。屋台を辞めないといけなくなって、悩んだ。今の広い空間を見つけた時、「慣れ親しんだ屋台の業態を再現できるのでは」と感じた。もう一度、満月をやってみようと思った。
“屋台屋”としての誇りもある。内山さんは多くを語りたがらないが、店舗にそのまま屋台を入れたのは、福岡市に対するせめてもの抵抗、意地もあるかもしれない。一方で、心の中にある、屋台への愛着が、そうさせたのだろうと感じる。
大雨だったら、開店すらできなかった昔の状況を考えれば、天候に左右されることがない今の状況は、店にも客にもメリットは大きい。もちろん、路上屋台ならではの情緒やライブ感は薄らいだのも事実。ただ、内山さんは「屋台に再び応募することは考えていない」と言う。
常連の女性は「クーラーが効いてて、快適。昔の路上の屋台だったら、暑すぎて干からびていたかも」と笑った。今の状況は、昔からの客にもおおむね好評のようだ。
内山さんを慕って、満月の昔ながらの常連は、テーブル席が空いていても、必ず、屋台のカウンター席に腰を下ろす。密着するような空間だから、知らない人同士が、すぐに打ち解ける。この日も、初対面の人に日本酒をごちそうしたり、フェイスブックの友達申請をし合ったり。焼きラーメンや豚骨ラーメンをすすりながら、“馬鹿話”で、夜遅くまで盛り上がった。
内山さんが言う「これまで通り」とは、この夜のような客同士で盛り上がる状態なのかな。店主も客も大笑いの、“屋台内”を眺めながら思った。
- 施設名
- 長浜満月
- 住所
- 福岡市中央区長浜2-5港ビル1F
- 営業時間
- 18時〜翌2時