山の壽酒造 その1

37歳、8代目の女性社長

新しく生まれ変わった「山の壽酒造」を紹介

福岡県久留米市の北野天満宮近くの3つの蔵巡り。最後は、山の壽酒造(やまのことぶきしゅぞう)へと向かった。

山の壽酒造は、1818年(文政元年)に創業した。米と野菜の産地であった三井郡(現在の久留米市)には、産業と言えるものがなった。そこで、地主であった山口清兵衛さんは、米を食べるものだけではなく何か地元の産業にと、地元の米と筑後川の伏流水で造る清酒製造を志したのがはじまりだ。平成3年の台風で蔵が全壊したのだが、2年間の休業後、再建し今に至っている。今年度からは新体制となりこれからが注目の蔵だ。37歳で代表取締役社長になったばかりの8代目片山郁代さんが笑顔で出迎えてくれた。

せっかく日本酒の価値観を変えられる立場に生まれたのだから、挑戦したい。

現在、片山さんは二人の子を持つ母であり、子育てをしながら社長を務める。片山さんは、先代の次女として生まれ、ウェディングプランナーとして活躍した後、蔵に入ったのは26歳の時だ。「この会社に入った時、会社が一番大変な時でした。まわりは、もちろん大反対。ただ、私は酒蔵の次女として生まれ、『日本酒の価値を変えられる立場に生まれてこれたからこそ、挑戦したい』という思いが強まっていたのです。会社が大変だからこそ、負はどこかで断ち切らなければならない。負をプラスにしてみんなが幸せになることをやりたい。まだ若いから、アルバイトでも派遣でも食べていける。とにかくやってみることに決めました」。

はじめて手掛けたのは、リキュール開発。

片山さんが蔵に入る1年ほど前、日本酒だけでは厳しいと、先代の社長がリキュールの免許を取得していた。「梅酒を作ろうとリキュールの免許を取っていたのですが、普通の梅酒では他の蔵と差別化できません。当時の私は、流通も今の市場もわからない。正直お酒がどうやって造られるかさえもわかりませんでした(笑)。そんな私がまず取り組んだことは、卸や小売店をまわり、とにかく話を聞くことでした。大きな卸、専門店、デスカウント店など100軒ぐらいはまわりましたね」。

がむしゃらに100軒まわったからこそ新たな出会いが。

「たまたま車で通りかかった郵便局の方から、『ここの酒屋さんいい人だから行ってごらん』と教えてもらい実際に行ってみると、私の話をとても熱心に聞いてくださって。その方が、これからリキュールの流通をしようと考えていた方を紹介してくださいました。この出会いが全ての始まりでした」。

その後、社外チームを組んでリキュールの開発が行われた。「私自信、焼酎は飲めないけれど、焼酎のカクテルなら美味しく飲めたんです。日本酒をあまり飲まない人でも、『日本酒ってこんなに美味しいんだ』と感じて飲んでくださる人が増えてほしい。そんな思いで造ったリキュールが、マンゴー梅酒。たまたま東京のTVで取り上げられたり、楽天市場で人気梅酒ランキング1位になったりと。本当にまわりのみなさんのおかげでした」と当時を振り返る。

昨年の10月からは、蔵に入って酒造りにも携わる。

昨年、柱となっていた杜氏が辞めたのだが、幸い良き指導者に恵まれた。「定年して酒造りから退いていたのですが、『もっとこの業界にいてほしい』と惜しまれていた方で。うちの蔵に来てほしいと言っても、すぐに『うん』と言ってもらえなかったのですが・・・。何とか来ていただけることになって。その方が、私にも蔵に入ったほうがいいとアドバイスくださり、背水の陣との思いもあり、昨年の10月からは、蔵に入って酒造りもしています。とはいえ、蔵では一番の下っ端です」。

片山さんが蔵に入ることで、蔵にある変化が生まれた。

「今までは、杜氏に全てを任せていたんです。蔵人は言われるままに、ただ作業をするだけ。私が蔵に入ってから、その指導してくださる方に、『どうして、これはこうなるんですか?』とわからないことは即座に聞いて、休憩中も分析室にいる指導いただく方の隣から離れないんです。そうすると、今まで休憩時間は休憩室で休んでいたみんなが、分析室に来て話を聞くようになった。みんながわからないことを指導いただく方に聞いて自ら勉強するようになったんです。みんなの意識が変わる瞬間でした」。

一丸となり、それぞれの長所を生かしていく。

新体制になってから、社長である片山さんだけではなく、営業も冬場は蔵に入る。「うちのお酒を取り扱ってくださる方に対して、酒造りに関する細かいことをいろいろと話ができるようになりました。それに、蔵に入ることで新たな世界が見えてきたんです。これからは、みんなでいろいろな蔵のお酒をテイスティングして研究しながら、同じ方向を向いて一丸となり酒造りに励んでいきます」。

ピンチは最大のチャンスというように、何か困ったことが起きる時は、それを乗り越え、新たなことに遭遇するチャンスなのだと思う。片山さんの明るさと行動力、そして蔵人たちのやる気は、山の壽の新たな一面を生み出してくれるに違いない。

施設名
山の壽酒造
住所
福岡県久留米市北野町乙丸1・2合併番地
電話
0942-78-4673
URL
http://yamanokotobuki.com
その他
今期新たに生まれ変わった「山の壽 特別純米酒 山田錦」「JAPANESE SAKE YAMANOKOTOBUKI 雄町 ver.」をはじめ、定番のリキュール・フルフルシリーズなどがある。